背景・状況

PRIMA!の海外展開を検討するにあたり、「どの国から攻めるべきか」という問いに直面した。ハンドメイドジュエリーという商材特性、ブランドの規模感、使えるリソースを考慮すると、全世界同時展開は現実的ではない。優先順位を明確にし、段階的に進める必要があった。

しかし、「英語圏だからアメリカ」「親日だから台湾」といった感覚的な判断では、貴重なリソースを無駄にするリスクがある。データに基づいた定量的な評価フレームワークを構築することにした。

課題・問題

海外展開先の選定において、以下の課題が存在した。

  • 判断基準が属人的になりがち。「なんとなくアメリカ」では投資判断の根拠にならない
  • 考慮すべき変数が多い。市場規模だけでなく、広告効率、配送コスト、日本への親和性、言語、購買力など多軸での評価が必要
  • データソースが分散している。Statista、eMarketer、Meta Ad Library、各国統計局など、複数のソースから情報を収集・統合する必要がある
  • チーム内で認識を揃える必要がある。定量的なフレームワークがないと、メンバー間で優先順位の認識がブレる

判断・アクション

11カ国を候補として選定し、6軸で定量スコアリングを行うフレームワークを構築した。

評価対象11カ国

アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、シンガポール、香港、台湾、韓国、タイ、マレーシア。英語圏と日本に地理的・文化的に近いアジア圏をバランスよく選定した。

6つの評価軸

  1. EC市場規模 --- 越境ECを含むオンラインショッピング市場の大きさ。Statista、eMarketerのデータを使用
  2. 日本親和性 --- 日本ブランドへの好意度、日本文化への関心度。訪日外客数、日本関連コンテンツの消費量で計測
  3. 広告効率 --- Meta/Google広告のCPC・CPM水準。小規模ブランドにとって広告コストは死活問題
  4. 配送インフラ --- 日本からの配送日数、配送コスト、関税の複雑さ。EMS、DHL等の配送業者の対応状況
  5. 言語 --- 英語対応のみでカバーできるか、現地語対応が必須か。翻訳コストの見積り
  6. 購買力 --- 一人当たりGDP、オンラインでの平均購入単価。ジュエリー市場の価格帯との整合性

スコアリング方法

各軸を10点満点で評価し、加重平均で総合スコアを算出した。加重は「広告効率」と「日本親和性」を他の軸より高く設定した。スモールブランドにとって、この2軸が最もROIに直結するためである。

データソースは12種を使用。Statista、eMarketer、Meta Ad Library、Google Keyword Planner、World Bank、各国政府統計、JETROレポート、訪日外客統計、IMF購買力平価データなどから横断的にデータを収集した。

結果

総合スコアに基づき、11カ国をTier1〜Tier3に分類した。

  • Tier1(最優先): アメリカ、イギリス、オーストラリア --- EC市場規模・購買力が高く、英語対応でカバー可能。広告効率もアジア圏に次いで良好
  • Tier2(第2フェーズ): シンガポール、香港、台湾 --- 日本親和性が極めて高い。市場規模は小さいが、広告効率が非常に良く、テストマーケティングに最適
  • Tier3(将来検討): カナダ、ニュージーランド、韓国 --- 各軸でTier1・2に劣後する項目があり、初期投資対象としては優先度が低い

このTier分けにより、「まずTier1の3カ国でShopify Markets対応とMeta広告を開始し、Tier2でテストマーケティングを並行実施する」という明確なロードマップが策定できた。

学び・気づき

感覚的に「アメリカが1位だろう」と思っていたが、定量評価してみると実際にアメリカが1位であることが確認できた。重要なのは「結果が同じだった」ことではなく、「根拠を持って説明できるようになった」ことである。

また、Tier2にシンガポール・香港・台湾が入ったのは意外だった。市場規模では劣るが、広告効率と日本親和性の高さが総合スコアを押し上げた。スモールブランドにとっては「大きな市場」より「効率の良い市場」の方が重要であることを、データが示してくれた。

「どこに進出するか」は感覚ではなくデータで決める。定量フレームワークがあれば、チーム全員が同じ根拠で意思決定できる。そして、スモールブランドにとって最重要なのは市場規模ではなく「広告効率」と「親和性」である。
KEY TAKEAWAYS

この記事のポイント

  • 感覚ではなく定量評価で国を選定する。6軸スコアリングにより、属人的な判断を排除し、チーム全体で共有可能な意思決定根拠を構築できる
  • 6軸のうち「広告効率」と「日本親和性」がスモールブランドには特に重要。市場規模が大きくても広告コストが高ければROIは出ない
  • Tier分けでリスクを段階的に管理する。全世界同時展開ではなく、Tier1から順に投資することで、限られたリソースを最大限に活かせる